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たんぽぽ保育園

浜松市郊外で、自然に恵まれた環境で保育を行うたんぽぽ保育園。周りは畑や果樹園に囲まれ、子どもたちは木々の成長や、実りの喜びを感じながら、豊かな経験を日々重ねています。

子どもは、一人ひとり個性があるように、成長の過程もそれぞれ。日々成長し、集団としての変化も見られます。新しい園舎は、そんな子どもたちの成長とともに育む、心地よい空間を目指しました。

「光・風・木」を感じる園舎の完成までのストーリーをお届けします。

知恵を出し続けた「計画のはじまり」

難航した土地探し

たんぽぽ保育園から新園舎の建て替えの相談があったのは、2015年ごろ。お話を伺うと、旧園舎は住宅街にあり、40年前は田んぼと畑が隣接する土地でしたが、現在は近くに駅ができるなど、少しずつ街の様子が変わっていったそうです。

旧園舎の周辺を見に行くと、住宅がだんだんと押し迫るような土地で、今後のびのびとした保育を行うには難しいという印象でした。しかし、その土地で長年思い出を積み重ねてきた、園側の思い入れも強く、現在の土地で建て替えるのか、移転先を探すのか、どちらを提案するか熟考を重ねました。

そして、園の教育方針などをヒアリングしながら、子どもたちがのびのびと成長できる場所はどんなところなのかということを、慎重に議論を重ねた結果、もとの土地に建て替えるのではなく、移転先で建て替えることに決まり、移転先となる土地探しが始まったのでした。

候補地となる土地を探し、数多く提案しましたが、資金面や、さまざまな理由で土地探しが難航。たんぽぽ保育園からお話があった当初に「いばらの道になりそうですが」と、前置きして相談されたことが、ふと頭をよぎりました。

都市計画法や道路関係など、苦戦を強いられた土地探し。さまざまな条件がある中で、できるだけ園の要望に合うよう、社内で力を合わせ、それぞれに知恵を出し合いました。

理想的な土地との出会い

航空写真を眺めながら空き地をくまなく探し、土地を片っ端から見て回るものの、条件に合う土地を見つけ出せずにいました。街の中心地から離れたゴルフ場の横に見つけた、谷のような土地や、郊外の山、農地など、実際に見に行った土地は数知れず。いざ候補地に行ってみても、条件が合わず断念、ということを繰り返す日々。ときには土地を交換してもらう交渉など、ありとあらゆる手段をとりました。

ようやく、郊外にある、田んぼや畑に囲まれた、自然豊かな土地が見つかったのは、浜松市からの建て替えの申請期限が迫った間際。広々とした約4100㎡の農地は、理想的な広さでした。

「自然に親しみ、自然を愛する子ども」をモットーにしている、たんぽぽ保育園の希望に合った土地は、法人の建設委員会での合意もとれ、ようやく大きな一歩を踏み出すことに。

人の心が集まる、方針の起点

伝えることの大切さ

2018年8月、建設委員会を設けたのを皮切りに、週1~2回ペースで話し合いがスタートしました。また、職員だけでなく、月1回のペースで保護者代表の意見を聞きながら、打ち合わせをすることに。というのも、この夏に行われた全国保育団体合同研究集会(以下、「合研」)に、当社全社員が、園の代表の方々と一緒に参加させてもらう機会があり、現場が始まる時にどういったことが問題になるのかを学んだからでした。

この合研とは、全国から保育者や保護者、設計士などいわゆる「保育の環境を作る人」が集まり、保育についてテーマごとに、意見交換や話し合いをする会のことをいいます。

河野(当社代表)は、その前に開催された大阪の合研にも参加していましたが、他県のさまざまな事例に触れることで刺激を受け、園側との意思疎通の大切さや、より丁寧な説明の必要性を実感。会を通して、私たち設計士が「当たり前」に取り扱う図面や専門用語は、一般の方にはわかりにくいということを、ひしひしと感じた瞬間でした。

実際に、図面に描いてるからと「図面通り」に進めてしまうと、図面を見て実際の広さや高さなど、その空間を立体的に想像することは、一般の方にとってはなかなか難しく、小さな認識の「ズレ」が生じてしまいます。そんな時は一度立ち止まって、意識的に園側に問いかけるようにしました。

その他にも、現場で調整しながら、その都度変更するといった作業も、これまで以上に丁寧にわかりやすく伝え、お互いの理解を共有。そんな小さな「問いかけ」の積み重ねが、園側との想いのズレを解消することに一役買いました。

大切にしたい想い

たんぽぽ保育園で大切にしてることは「みんなで意見を出しあい、みんなで決めて、みんなで実行する。やったことを振り返り反省点は次に活かしていく」ということ。

・仲間の中で育ちあう子ども 明日を拓く子ども

・子どもを真ん中にして保護者と職員で子育てをしていく

・地域の子育ての拠点となる

これは共同保育所時代から大切にしてきた、たんぽぽ保育園の大きな「柱」であり、子どもたちと「保育」、保護者との「共同」、職員の「集団づくり」など、さまざまな場面で大切にしている「想い」だそうです。

この想いをしっかりと受け止め、コミュニケーションの齟齬(そご)や、認識の違いがないよう話を進めました。

積極的な意見交換から生まれた、プランニング

アイデアの「点」を「線」に

園舎をどのような建物にするか。建物の構造は鉄骨造なのか、木造なのか。土地の広さや、周辺環境の視点から平屋なのか。園庭を広くとりたいから二階建てなのか。さまざまな選択と決断を繰り返しながら、図面に落とし込んでいきました。

そのほかにも、プールは常設なのか組立なのか。また、幼児と乳児のエリアや事務室、玄関など。課題は山ほどありましたが、重要なところはその都度、代表の職員や保護者と意見をすり合わせ、「みんなで意見を出し合い、決める」というプロセスを踏みました。トップの職員の一存ではなく、全員が納得するような話し合いが毎回もたれ、その過程が興味深く、新たな気づきを発見する場にもなりました。

園側からの、実際に見ないと想像がつかないという意見から、他県に何度も足を運び、“天井だけ”、“外壁だけ”と、それぞれを見学しに行くことも。天井の高さについては、旧園舎の天井がフラットで低いことや、以前設計させていただいた姉妹園「はらっぱ保育園」の天井は、子どもたちにとって少し高いと感じるなど、積極的に意見を交え、進むべき方向性を見出していきました。

さまざまなアイデアや意見が飛び交い、この「点」をどのように「線」にしてつなげていくか、大変な作業でもありましたが、挑戦しがいのある、今までに感じたことのない可能性に満ちたものでした。そして丁寧に時間を重ね、理想の園舎のイメージを共有し、新園舎建設の「4つの大黒柱」がようやく決定しました。

●4つの大黒柱

1. どの子もどの大人も安心していられる場所、居場所(音・広さも含めて)

2. みんなの顔が見える、つながる保育園

3. どの部屋も明るく、日差しが入り、風通しが良く、木のぬくもりがある園舎

4. 自然と触れ合い、身体をいっぱい動かして遊べる園庭

子どもの目線に立って考える、空間づくり

子どもたちが元気に走り回れる園庭の面積の確保や、緊急時における避難経路の確保、子どもたちのコミュニケーションについてなど、議論を重ねた結果、周囲の景観に馴染み、建物に安定感がある、重心の低い平屋のデザインに決まりました。

そして、あたたかな陽だまりと、自然素材が織りなす、心地良さを感じる中で、子どもたちのさまざまな情緒や、豊かな感受性を育むことのできる空間を目指しました。

自然と共生する「価値観」を育む場所

成長に合わせて使い分ける、3つの園庭

子どもたちの成長にとって、外の空気に触れ、体をめいっぱい動かして遊ぶことは大切な時間です。園庭は、築山を中心に子どもたちが元気いっぱいに走り回れる大園庭と、自然と共同作業が生まれる長い砂場、よちよち歩きを始めたばかりの子どもたちが、芝生で遊べる乳児園庭の、3つのゾーンに分けることに。

年齢のちがう子どもたちが、その成長に合わせて園庭を使い分けることで、どの年齢の子どもたちも安心して遊ぶことができるよう設計しています。

共に成長する築山

今までに、土だけで作った築山は手がけてきましたが、子どもたちがハードに遊ぶと崩れてしまい、それはそれでいいのですが、山を残しながら遊びの空間として存続するにはどうしたらいいのだろう、と長年考えていました。 そんな中で出合ったのが、敷葉(しきは)工法という、土の間に小枝や葉を何層にも敷き詰めて、土を滑りにくくし崩壊を防ぐ、昔からの土木技術でした。

もともとは農家の方が、山にあぜ道を作った時に使用する昔ながらの工法だそうです。その技術を学び、築山には多孔管を入れ、周りには丸太や炭、竹、石などを敷き詰め、空気と水の循環を促し、水脈整備をすることに。

人工的に作った築山ですが、できるだけ自然の力でそのままの形を保てるよう、築山のまわりには、イチョウやケヤキ、クスノキ、ヤマモモなどを植栽。この木々たちが根を張ることで、築山の崩壊を防ぐ役割を担っています。今回の築山は、どちらかというと高級な材料ではなく、山で自然と手に入る、昔ながらの材料で作ったのも特徴的です。

子どもたちが築山の斜面を転がったり、かけっこしたり、元気に遊ぶのはもちろん、木々の成長を眺めることで、葉の色づきに季節の移り変わりを感じとることができます。身近に木々や草花と触れ合うことで、子どもたちが自然と共生する価値観を育んでくれればと思います。

園庭は園舎が完成してから作ったということもあり、子どもたちも築山が完成するまでの過程を見ていたからか、愛着も持ち、大切に遊んでくれているそうです。植え込んだ木々の幹はまだまだ細く、築山自体は未完成ですが、卒園した子どもたちが10年後くらいに園舎に遊びに来たとき、木々が太く、大きく成長し、わっと驚いてもらえれば嬉しいです。

自由な発想力で、新しい価値を生み出す

旧園舎で使っていた遊具たちは「アップサイクル」をテーマに、もともとの形状や特徴を活かしつつ、新しいアイデアやデザインを加えて、再利用することに。

例えば木製のアスレチック遊具を丸太橋にしたり、ブランコの鉄骨脚をテーブルにしたりと、試行錯誤しながらも楽しんでプランを練りました。

アップサイクルの理念は、子どもたちの教育にもつながり、自由な発想力や想像力で、新しい価値が生まれることを感じてほしいです。

自然な「心地よさ」を目指して

日常を包む、やさしい素材

床は、素足で過ごす子どもたちに優しい、自然素材であるドイツのパイン材を使用しました。夏はサラッと心地よく、冬は冷やっとせずに、素足で歩いても、ハイハイしても気持ちよく過ごせるのが特徴です。今はぴかぴかの床ですが、歳月を重ね、使い込むほどに風合いを増していきます。

仕上げは自然塗装なので、手入れもオイルを塗って膜を張るくらいで十分です。廊下の壁を、子どもたちの身長の高さまで自然素材にしたのは、自然素材の気持ちよさを子どもたちがより感じられるように。

デザイン性と機能性を保つ、快適な空間

子どもたちの元気な声は、ときに高速道路の脇と同じくらいの騒音レベルとも言われます。保育室の壁には有孔板を、天井にはGWボードを使用。また廊下の天井には、吸音効果のある不燃テントを張り、幕天井としています。不燃テントは吸音効果が期待できるのはもちろん、光が部屋全体にやわらかく拡散するのが特徴で、白い壁に刻々と変わる光のニュアンスを感じられます。

壁や天井に吸音効果のある仕上げ材を選択することで、子どもたちの元気な声を和らげてくれ、保育士の先生方の声が聞き取りやすく、大声を張る必要がなくなります。子どもたちも必要以上の声で話す必要がなくなり、子どもも大人も快適な環境に。

水遊びで育む、子ども好奇心

水遊び、泥遊びが大好きな子どもたち。井戸を設置することで、子どもたちが水に親しむ環境がつくれ、その上、水道代を気にせず遊べるというメリットがあります。また、災害時には地域のみなさんに利用いただくことも可能です。井戸の基本設計は、事前調査でわかった近隣データを参考に、掘削と設定、飲用検査項目(51項目)の水質検査を行いました。

また、他園では組み立てプールを使用するのが一般的ですが、井戸水のあるたんぽぽ保育園では、常設の製作プールにこだわりました。保育士の先生方と子どもたちから要望を聞き、ときに私たち設計士も、子どもたちと一緒にプールに入りながら考えることも。そうすることで、実際にプールに入りたがらない子、水が苦手な子たちがいることに気づきました。

常設プールにすることで、組み立てプールにはないプールサイドができ、水が苦手な子でも、プールサイドで足だけ水に浸かったり、ちゃぷちゃぷ水面を叩いたりすることができます。

また、子どもたちが、水の中で同じ方向にぐるぐると走り回り、流れるプールをつくっていましたが、波をたてて遊ぶのが楽しそうで、水が苦手な子も近くで見ることで、水遊びは楽しいものだという経験を得るかもしれません。

そうして、水に対する抵抗感を徐々に減らしていってもらえばと。何より水に入ってる子と同じ目線で、同じ空間にいられる経験が、大切な思い出になるのではないかと考えています。

自然の力を借りて

空調機器の補助的な役割を担う「屋根散水」。屋根に井戸水を散水して利用することで、夏の日射による気温上昇を抑える効果が期待できます。また、夏の間、空調機器だけに頼らず、水の力を借りて暑い日を涼しくしようと、各保育室の南側の庇部分にミストシャワーを設置しています。

自然の変化に呼応

子どもたちにとって体温機能調節が備わる大事な時期を、一定の室温にコントロールした部屋で過ごすのではなく、自然の変化に呼応しながら、暖かさや涼しさを感じてもらうことが、成長段階にある子どもたちにふわさしい室内環境かと考えています。そういったことから、乳児棟保育室では、エアコンを使用せず、除湿型放射冷暖房システムを採用。

この除湿型放射冷暖房システムは、温水や冷水をラジエータの中で循環させ、空間全体を放射と自然対流により、自然な暖かさや涼しさにするパネル型の冷暖房装置になります。エアコンのように、乾燥した風が直接体に当たることもなく、緩やかに変化する気候にあわせて、室内の環境が快適に。

それと一緒に、給水管直結の蒸気式加湿器も使用するとで、冬場の感染症予防の効果が得られます。旧園舎では使用していなかった装置になるので、園の方々と一緒に実物を見に行き、導入に納得していただきました。

複雑なデザインで刺激する、子どもたちの「想像力」

「木」を感じる構造を実現

構造の基本的な考えとして、構造自体をそのままデザインとして、子どもたちに感じてもらえるよう設計しています。木のぬくもりにあふれた保育室は、穏やかな日差しがたっぷりと降り注ぎ、南の窓から北の窓へと、心地よい爽やかな風が通り抜けます。

南北に大きな窓を設けることで、外との連続感を出し、さらに部屋の中に柱がないので、開放的なスペースに。

また、昼間は各部屋に設けた「はと小屋」で採光と換気を取り込み、照明器具を使わず、空調もあまり使用しなくても済むという究極のエコを目指しました。

天井は、ラチス(梁)の構造で、菱格子を連続で組んだような形が特徴的です。初めてこのような形で納めましたが、子どもたちに木をたくさん感じてもらいたいので、天井の梁はすべて見えるようにし、子どもたちの五感を刺激します。

子どもの空間認識を育む

遊戯室は、保育室の三角グリッドを踏襲し、木材を編むように仕上げました。珍しい形状の、インパクトのある天井ですが、木にやさしく包み込まれるような空間を意識しています。

普段あまり大人は気にしませんが、乳児や子どもは何気なく天井を見ていることが多いと感じています。この天井を子どもたちが見たらどう感じるだろうと、子どもの目線で考えながらデザインしました。

四角や三角など空間認識を子どもは感じ取り、それは成長過程で大事なことです。単純な面で見せるより、少し複雑なデザインにすることで、子どもたちの想像力をかきたてる、言葉では言い表せられない経験が育まれるかと思っています。

子どもたちに建築を通して自ら発見してもらいたい、そういう場面がたくさんある園舎になったら嬉しいです。

また、この天井についても初めての取り組みで、並行に流れる材と、斜めにかかっている材の流れるポイントの高さは一律ではないので、それを三次元で解析し、実物大の模型を試作。一発勝負ではいかないと予想した通り、試作段階で微調整できたので、試作したことは大正解でした。

わずかな工夫ひとつで、建物の可能性を広げる

斜めに傾いた壁に、寄りかかりながら

遊戯室北側にあるRCの壁は、木目が転写するように工夫しました。普通に納めない、ちょっとした工夫で、のっぺりとした印象を与えるRC壁が外から見たときに格好良く見えます。また、躯体に沿って外壁が少し傾いてるので、子どもたちが壁に寄りかかったとき、寄りかかりやすいかと思います。

設計しながら、この壁に友達と寄りかかりながら、子どもたちがおしゃべりをしている姿を想像して、微笑ましく思うことも。しかし、斜めの梁を全て手作業で取り付け、片方から梁を取り付けていくため、建て起こしを合わせる事に苦労しました。

泥んこになって、はじける笑顔でお出迎え

豊かな自然の中、季節を受け止める

完成後に園舎を訪れると、子どもたちが元気よく走り回り、泥んこになって迎えてくれます。楽しそうに遊んでいる姿を見ると、気に入ってもらえたんだなと安心します。

広々とした園庭で、木々や草花の成長を感じ、鳥の声や虫の音に耳を傾け、夏の燦々と降り注ぐ太陽の光、冬の陽だまりを感じ、子どもたちが四季折々、季節を受け止めてくれたらと楽しみにしています。

そして、子どもたちの「楽しい」や「好き」が好奇心につながり、自ら「発見」する喜びを感じ、まわりの大人が優しく見守れる場になってもらえればと思います。

たんぽぽ保育園 
・建築地/ 静岡県浜松市北区初生町
・構造/木造一部RC造一部鉄骨造
・延床面積/960.31㎡   
・竣工/令和2年3月14日

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